原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

024 小型で取り扱いが簡単

掲載日:2023年5月2日

原子力科学研究所 放射線計測技術課
技術副主幹 西野 翔

2012年に原子力科学研究所放射線計測技術課に配属。放射線標準施設(FRS)で放射線測定器の校正・試験を行うための照射設備の維持管理、校正場の開発などに従事。様々な分野の研究者・技術者に、高品質な放射線実験の場を提供できるよう、照射設備やサービスの機能維持・向上に努めている。

甲状腺ヨウ素モニター

医療利用にも

原子力発電所で万一の事故が発生した場合、周辺住民の内部被ばく線量を迅速に把握する必要がある。そのカギを握るのが、甲状腺ヨウ素モニターだ。このため日本原子力研究開発機構では小型で取り扱いが簡単なモニターシステムを開発し、避難所などでの利用を可能にした。今後は通常の医療利用も目指す。

ヨウ素は体内に摂取されると、喉の下部にある甲状腺に取り込まれやすい。甲状腺には、ヨウ素を原料に体内の新陳代謝を促す機能があり、幼児や小児の成長にとって重要な器官である。

原子力災害などにより環境中に放射性物質が放出された場合、呼吸や飲食を通して、周辺住民が放射性ヨウ素を体内に摂取し、内部被ばくとともに甲状腺がんを引き起こす可能性がある。そのため、対象者の被ばく線量を正確に評価し、適切な医療や健康観察につなげる必要がある。

素早く正確に

測定対象となるヨウ素131は半減期が8日と短いため、摂取後できるだけ早く、周辺住民を対象とした甲状腺モニタリングを実施しなければいけない。その際には甲状腺に集まった放射性ヨウ素から放出されるガンマ線を体外計測し、放射性ヨウ素の摂取量を定量する。

ただ、従来の甲状腺モニターは、病院などに固定された大型のものが多く、被災地で使用することは難しかった。福島第一原子力発電所事故の際には、空間線量測定用のサーベイメーターを用いて測定した例があるが、汚染環境下では、精密な測定ができなかった。

そこで、原子力機構ではシンチレーション検出器に遮蔽体を取り付けるなどの工夫により、緊急時に被災地に持ち込んで使用できる可搬型の甲状腺ヨウ素モニターを開発した。

大人数にも対応

測定は、机上に設置した測定器に、上方から喉をあてて行う。測定時間は150秒程度で、大人数の測定にも対応可能だ。

現在は開発した甲状腺モニターの製品化に向けた検討を進めている。将来はオフサイトセンターや地方自治体に配備することを目指す。

また、万が一の原子力災害に備えて、測定手順の整備や、測定実施者のトレーニングなども含めた甲状腺モニタリング体制の構築にも尽力していく。

さらに甲状腺疾患の診断やアイソトープ治療など、医療分野での利用の可能性についても研究を進めていく。